病気のページ1
 「椎間板ヘルニア」

 最近来院するダックスフントの数が、本当に増えました。2003年のJKCの登録数を見てみると、ダックスフントは171144頭で、2位チワワの73684頭、3位プードルの29629頭を大きく引き離して堂々のトップを突っ走っています。
 なぜ、こんな話を持ち出したのか?
 実は、この傾向に伴い最近目立って増えてきた診察、それが「椎間板ヘルニア」です。当施設の椎間板ヘルニアの手術症例の中で、ミニチュアダックスフントは約半分を占めています(52%:12/23)。

 

症状は?

来院時の主訴として多いのは、どこか痛い、びっこをひく、腰がふらつく、足の甲を地面につけたまま立っている、両足がぴんと伸びてしまって動かないなどです。椎間板ヘルニアは多くの症例で、強い痛みとともに麻痺が起きますが、飼い主さんの多くは「腰が痛い」ことに気づかない場合が多く思われます。

表1 椎間板ヘルニアの症状

どこか痛い
 (段差をとび上がらない、抱き上げるとキャンと鳴く)

一肢あるいは複数の肢のビッコ

両足の硬直 (ときどき尿失禁を含む)

どんな病気?
 
 犬の脊椎は、頸部7、胸部が13、腰部7(ときどき6個とか8個の犬もいます)から形成されています。脳は巨大な神経の固まりですが、この神経の塊が尻尾まで伸びている部分が脊髄です。脊髄は脊椎の管(脊柱管)のなかを通り、前肢や後肢、膀胱、肛門などに分布しています(図1)。脊椎の間には、背骨と背骨の間のクッションが存在し、これを椎間板といいます。椎間板が変性を起こすと硬くなり、皮膜を破って飛び出し、脊髄を圧迫します(図2)。これが椎間板ヘルニア(Hansen T型)です。この椎間板が変性しやすい犬種が、ダックスフントやビーグル、それにペキニーズなのです。飛び出した椎間板物質(髄核)に脊髄が圧迫されると、圧迫の部位によって前足がマヒしたり、後ろ足がマヒすることになります。神経障害がひどくならない前に発見して治療すれば治ることが多いのですが、手遅れになり神経細胞が壊死してしまうと、生涯にわたり麻痺が持続することになります。

治療

 肝心の治療ですが、軽度の場合、安静のみで治癒してしまうことがあります。ステロイドや鎮痛剤のみの投薬では、飛び出した椎間板物質はそのまま神経を傷害し続けるため、麻痺がより重篤になる可能性があります。重度の麻痺が存在する場合、ステロイド剤の点滴投与と安静(部位によってはコルセットも)、さらにひどい場合には手術により減圧することと飛び出している椎間板物質を摘出することが必要になります。手術にいたる当施設での基準は、ヘルニアの重症度によってグレード分けを行い、表2と3にしたがって行っています。当施設におけるここ3年間の症例を見てみると、症例の分布は図4のようになっています(痛みのみの症例は除いてあります)
検査

 椎間板ヘルニアの検査としては、簡単な器具を使い反射や痛覚の具合を見ていく「神経学的検査」が第一に必要な検査になります。これにより、ヘルニアを起こしている部位のおおよその位置を予測することができます。単純X線撮影も有用なことがありますが、場所がまったくわからないことも半数くらい存在します。もし、手術が必用な症例では、麻酔下で脊髄造影検査、X線CT撮影、あるいはMRI検査を行います。当施設では、もっとも多く用いているのは脊髄造影検査です(図3)。また他の施設での委託撮影になりますが、動物専用MRI検査では、より詳しいヘルニアの様子だけではなく、脊髄自体のダメージも描出可能です。

 この中で、椎間板ヘルニア症例で実際の手術実施症例は20例であり、上記の基準を満たしたもの、あるいは点滴治療のみで治癒の見込みが少なかったものです。手術を行った症例全体での回復率を見てみると、治癒率は70%(14/20)となります。しかし、もう少し詳しい内訳をみてみると、椎間板ヘルニアの80%は胸と腰の部分に起こります。先ほどのグレード別に手術の成績を見てみると、グレードVまでは100%の回復率(13/13)、グレードWが50% (1/2)、グレードXでは0% (0/5)でした。したがって、両足が麻痺していて、さらに尿失禁をしてしまっている場合、回復はかなり厳しくなると一般的に言うことができます。ただし、これは当施設の比較的時間の経過してしまった症例でのお話です。ある外国の論文では、痛覚がなくなって48時間以内に手術をした場合には50%は回復するというデータが報告されています。逆に48時間以上経過してしまうと、回復率は6%にまで落ちます。このことからも「痛覚までなくなっているともうだめ」というわけでは決してなく、早期で可能性が少しでもあれば治療を行ってみる価値があると、当施設では説明しています。また、実際の手術法については気持ちの悪くない方だけ、ご覧ください(図5)